犬
『皮膚にしこりができた』『イボができた』『隆起がある』『何かボコっとしている』『コブみたいなものができた』などのご相談をよくいただきます。前述のようなものが見つけた場合には、早めに動物病院にご相談ください。様子を見過ぎてしまったり、ご自身の判断で外用薬を使用し悪化させてしまったりするケースもあるので気をつけましょう。病変に対して正しいアプローチを行うことが重要です。
≪現状・経過を把握する≫
腫瘤を見つけたばかりだとその経過はわかりませんが、見つけた際に病変の記録をとり、その後の経過を記録しておきましょう。その経過によって治療が変わることもあります。気をつけてみていただく点をまとめました。
・外観:色、形状、大きさ、数
・状態:硬さ、範囲、周囲への浸潤、固着・遊離(皮膚、皮下、皮下織、筋肉など)
・性状:脱毛、出血、糜爛、潰瘍、化膿、破裂
・症状:疼痛、痒み、自傷(舐性・咬傷)
・経過:拡大・縮小、増加・減少 など
着目していただく点も多いので、ノートなどに記録をとっていただくと正確で変化もわかりやすいです。
≪その隆起の正体は?≫
その正体を把握することで先の治療につなげることができるので非常に重要なことですが、多くの場合見た目では判断がつきません。
皮膚の炎症?嚢胞?膿瘍?
腫瘍?良性?悪性?
分泌物?過形成?
⇒その病変が何か?を明らかにするために必要な検査が『生体検査(生検):組織を採取し顕微鏡でみる検査』です。
少ないですが、もちろん外観のみで判断できる病変もあるので、病変に対して、生検が必要か、可能か、どの種類の生検が適するかを検討しなければいけません。皮膚腫瘤で行う生検には、大きく分けて2種類の生検があります。
・細針吸引生検(細針穿刺生検)
・切除生検
どちらを選択するかは、腫瘤の状態とそれぞれの検査のメリット・デメリットを検討し、飼い主さんと相談の上、決めていきます。
≪生検(細胞診または組織病理検査)≫
腫瘤の一部または全部を採取し顕微鏡で確認する検査です。
・細針吸引生検・細針穿刺生検(細胞診)
腫瘤の一部を採取し、その細胞を診断します。採れた細胞より腫瘍の種類や性状を仮診断することが可能です。腫瘤の一部しか採取ができないため、あくまで仮診断です。
侵襲性の非常に低い検査で仮診断をたてることが出来るため非常に有用有益な検査ですが、小さな腫瘤(針の穴程度)では、検査を行うことが出来ません。また多量の出血や検査後に穿刺部位から自潰につながる可能性のある場合は、検査の実施を慎重に検討しなければいけません。
①仮診断が可能:経過観察または治療の検討
②仮診断が不可能:専門医に診断を依頼
その結果により切除生検が必要か判断
内科治療・外科処置を優先するか判断
外科手術を優先するか判断
・切除生検(組織病理検査)
腫瘤全域を切除し、腫瘤全域の検査が可能なため、確定診断が可能です。腫瘍の種類・性状・切除範囲によっては治療を兼ねます。大きさ・部位によっては、無麻酔あるいは局所麻酔で切除も可能です。大きい腫瘤や部位によっては、全身麻酔下での切除が必要になります。治療をかねるため、マージン(のりしろ)を含めて広範囲に切除することもあります。
当院では、半導体レーザーを使用した無麻酔下の種瘤切除も行っております。術後の疼痛緩和、上皮形成の促進などの効果があり、非常に有益です。半導体レーザーの無麻酔下種瘤切除を行った場合、同時に病理検査も可能な場合があります。切除ではなく種瘤のレーザー蒸散を行った場合や熱変性が強く出た場合は病理検査の判定ができません。適不適を含めてご相談させていただきます。
それらの結果を考慮した上で治療方針を決定していきます。
穿刺・圧出が可能か?危険性はないか?
経過観察が可能か?危険性はないか?
発症部位に機能的問題はないか?
予後判定が可能か?
必要な治療は?
穿刺・排膿・洗浄
薬剤:抗生物質
副腎皮質ステロイド
NSAIDs
免疫抑制剤 など
外科手術(切除・摘出・形成術)
半導体レーザー切除・蒸散
治療を兼ねた切除生検 など
≪経過をみる際の注意点≫
検査の結果、悪性腫瘍などではなく良性腫瘍などで経過観察となった場合も、以下の点に気をつけておきましょう。
・発症部位が生命に関わる:顔、肛門周囲、外陰部など
・拡大や増加が急速で著明
・機能異常を伴う(肢端に出来た種瘤によって動きに影響する場合など)
・出血、糜爛、潰瘍、化膿、破裂の存在
・痒み、疼痛、自傷(舐性)の存在
特に症状が認められる場合は、症状を重視し早めの切除が必要になることがあります。